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イレーネ・パパス(1926~)

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イレーネ・パパスは、故メリナ・メルクーリと並ぶギリシャ映画を代表する大女優です。 私はギリシャ女優が好きなのですが、その理由は、ギリシャ女優の男っぽさにあります。
メルクーリも男っぽかったけど、イレーネ・パパスも男勝りというか、女丈夫というか、並みの男では太刀打ちできない逞しさを感じます。
下手に口答えなんかしたら、ぶん殴られそうで。。。w
野性的で荒々しい外見に似合わず、両親ときょうだいは全員、大学教授というインテリ一家の出で、彼女ひとりが演劇の道に進み、
ギリシャ出身のアメリカの映画監督、エリア・カザンに見いだされ、次々とギリシャ映画に出演して実力を認められるようになったといいます。

私がはじめてみた彼女の映画は、エウリピデスの悲劇を基にした、マイケル・カコヤニス監督の『エレクトラ』(1962)です。
エレクトラは、父であるミケーネの王、アガメムノンを愛人と共謀して暗殺した母のクリュタイムネストラを激しく憎み、弟のオレステスと計って復讐するのですが、
強い意志を感じさせる断髪姿のエレクトラ役のイレーネ・パパスの厳しい表情と荒涼としたギリシャの風土が、ギリシャ悲劇がもつ重苦しさによくマッチしていました。
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エレクトラ
https://www.youtube.com/watch?v=5crCNgAPvAk
監督のマイケル・カコヤニスは、このあと『トロイアの女たち』(1971)と『イフゲニア』(1977)を撮ってエウリピデス三部作を完成させるのですが、このすべての作品にイレーネ・パパスを起用しています。
『トロイアの女たち』ではトロイア戦争の原因となった美女ヘレネを演じているそうですが、私はこの作品は未見です。
『イフゲニア』では、後にエレクトラに殺されることになるアガメムノンの妻、クリュタイムネストラを演じています。
時系列でいうと、イフゲニアは、第一作のエレクトラよりもずっと前の話になります。
トロイアの王子に略奪されたスパルタ王、メネラオスの妃、ヘレネを奪回するためにギリシャ側は連合軍を組織して、トロイアに攻め込むことになるのですが、凪の日が続き、ギリシャ軍は船出できずにいます。
中々、船出できないことから海岸で無為な日々を過ごす兵士たちの間で不満が高まってきたとき、ギリシャ軍の総大将を務めるメネラオスの兄のミケーネ王アガメムノンに、
娘のイフゲニアを生贄として差し出したら、風を吹かせるという女神アルテミスの神託が下ります。
愛する娘を生贄に差し出すようにいわれて苦悩するアガメムノン、娘が生贄にされることを知って半狂乱に陥るクリュタイムネストラ、
自分が生贄になることを知ってショックを受け、悲しむものの最後には慫慂として運命を受け入れるイフゲニア、
この三人三様の心理的葛藤が息詰まるような迫力で描かれ、最後のクライマックスになだれ込んでいくマイケル・カコヤニスの演出は見事です。
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イフゲニアhttps://www.youtube.com/watch?v=yGMmFwL_Wb4
娘のイフゲニアを夫のアガメムノンに殺されたことから、クリュタイムネストラはアガメムノンを深く恨むようになり、それが後の彼女と愛人によるアガメムノン殺害につながっていくのですが、
その結果、クリュタイムネストラはイフゲニアの妹のエレクトラと息子のオラステスによって復讐されるのです。
このような呪われた家族の物語を描く、逃げ場のない不条理なギリシャ悲劇を演じるのにイレーネ・パパスほど適役はないという気がします。
出てきただけで、「ザ・ギリシャ悲劇」と名付けたくなるようなドラマチックな雰囲気を漂わせていますから。
イレーネ・パパスの名前が国際的に知られるようになったのは、同じくマイケル・カコヤニス監督の『その男ゾルバ』(1964)への出演がきっかけです。
このギリシャのクレタ島を舞台にした映画で、イレーネ・パパスは、島にやってきたイギリス人の青年、アラン・ベイツと恋に落ちる村の未亡人役を演じていますが、
洗い髪の未亡人が窓辺に座って、窓の外をじっと眺めて男を待つシーンは、今でも強く印象に残っています。
未亡人がよそ者のイギリス人と関係をもったことは、あっという間に村中に知れわたり、彼女にひそかに想いを寄せていた村長の息子が海に飛び込んで自殺を図った結果、
怒った村人たちは、外出した未亡人に石を投げつけて、殺してしまいます。
よそ者のイギリス人であるアラン・ベイツは、まさか自分が未亡人と関係をもっただけで彼女が殺されるなどとは想像もしなかったでしょうが、
地元の人間である未亡人は、イギリス人の彼と関係をもったら、村人から私刑を受けることになることはわかっています。
それでも燃え盛る情欲を抑え切れず男の求愛を受け入れてしまうのですが、その死を覚悟した未亡人が発散する強烈なエロチシズムは圧巻で、みていてドキドキしたことを覚えています。
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その男ゾルバhttps://www.youtube.com/watch?v=mIGs9HI7-uQ

イレーネ・パパスのそのほかの出演作としては、フランチェスコ・ロージ監督の『エボリ』で、庭に置いた盥で小さな男の子を行水させて、
洗い終わった男の子のオチンチンにチュッとキスする南イタリアの陽気な農婦などが印象に残っていますが、
女優として卓越した実力をみせつけたのは、ガブリエル・ガルシア=マルケスの小説を映画化したルイ・グエッラ監督の『エレンディラ』(1984)でしょう。
私は、この『エレンディラ』を含めて、ガルシア=マルケスの小説はあまり好きになれないのですが(次から次へと嫌な性格の人間ばかり出てくるので)、
ブラジル人の監督、ルイ・グエッラは、この多分にグロテスクで憂鬱な話を素晴らしく魅惑的で、幻想的な作品に仕上げています。
映画の成功はもちろん、ルイ・グエッラ監督の力量によるものですが、孫娘に売春させながら旅を続ける無慈悲な祖母を圧倒的な存在感でもって演じきったイレーネ・パパスの力も大きかったと思います。
日本で蜷川幸雄がこのエレンディラを舞台化したとき、祖母の役を女優ではなく男優に演じさせたそうですが、その選択は正しかったと思います。
日本の女優では、この怪物的なグレートマザーを演じるのは到底、役不足ですし、
欧米の女優でもこの役を演じ切れるのは、並みの男よりもずっと野生的で荒々しい、恐ろしげな雰囲気を漂わせているイレーネ・パパスくらいのものでしょう。
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エレンディラ
https://www.youtube.com/watch?v=sYNDLXdu_aM

本日のつぶやき
会社で彼女の話が出たときに何もいえないから辛いと愚痴をこぼすホモがいるが、酒が飲めないのに会社の飲み会に付き合わされる下戸の大変さと較べると大したことはない。ようするにマイノリティはどこでも肩身が狭いということだが、人間、時と場合によってマイノリティからマジョリティに変わったりするから、マイノリティを尊重しろとあまりうるさくいわないほうがいい。


つぶやき2

日本人がフランス人と国際結婚するとき、結婚する本人の戸籍謄本をフランス語に翻訳して駐日フランス大使館に提出する必要がある。その翻訳を何度か頼まれてやったことがあるが、不謹慎だけどものすごく面白かった。戸籍謄本には、家族の歴史がすべて詰まってる。いつ結婚したか、初婚か再婚か、子供はいつ生まれたか、嫡出子か婚外子か、等々。蓮舫が戸籍謄本を公開しない理由がなんとなく分かるw

つぶやき3

米AP通信が新ルール 「he」「she」が嫌な人に  「he」(彼)とも「she」(彼女)とも呼ばれたくない人を指す時に「they」を三人称単数で使うことを認める--https://mainichi.jp/articles/20170519/k00/00m/040/025000c
「I t」でいいんじゃない?


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