去る5月8日に開催されたイベント「東京レインボープライド2016」でキャロライン・ケネディ駐日アメリカ大使がスピーチを行ったことはこのブログでも取り上げました。
「日本でLGBT教の伝道をしている駐日アメリカ大使、キャロライン・ケネディ」を参照。
彼女はそのスピーチで「LGBTの子供たちのイジメ問題」に言及したのですが、そのときはなんとも思わなかったものの、時が経つにつれて疑問が沸いてきました。
なぜ彼女はスピーチで「LGBTの子供たちのイジメ問題」にしか言及しなかったのか?
アメリカのサル真似ばかりしている日本のゲイリブ活動家が一番、声高に主張しているのは日本における同性婚の法制化、あるいはその最初の段階としての同性パートナーシップ制度の導入です。
そのため、本来ならばゲイパレードに招待されたケネディ大使は、日本における同性婚の実現を訴えるスピーチを行ってもよかった筈です。
しかし彼女は同性婚についても、同性パートナーシップについても、一言も触れなかったのです。
そしてどちらかというと、ゲイリブのイシューとしては二次的な「LGBTの子供のイジメ問題」を取り上げたのです。
なぜでしょうか?
私は渋谷区と世田谷区が昨年、交付することを決定した「同性パートナーシップ証明書」が渋谷区と世田谷区在住の当事者の大半から無視され、
実際に証明書を申請したカップルが非常に少なかったことが原因ではないかと考えています。
マスコミを使って大々的に宣伝して世間の注目を浴びた渋谷区の「同性パートナーシップ証明書」ですが、いざ蓋を開けてみると、申請したカップルはたったの1組、
渋谷区のLGBT関連のイベントに必ず顔を出す、渋谷区ご用達LGBT芸人の東小雪と増原裕子のレズカップルだけだったのです。
いくらなんでもたった1組では示しがつかない、と考えた長谷部区長やその取り巻きのLGBT活動家が知り合いに電話をかけまくって、
さらに7組のカップルをかき集め、条例施行後1年でようやく8組になったそうですが、渋谷区の人口が20万人で、その5パーセントが同性愛者と仮定した場合、1万人の当事者がいるわけで、
潜在的には5000組の同性カップルが存在することを考えると、8組というのはいかにも少なすぎます。
長谷部区長は「日本はカミングアウトしているLGBTが少ないから」と言い訳していましたが、そんなこと最初からわかっていたことでしょう。
ようするに長谷部区長が渋谷区のイメージアップのために大々的に宣伝して売り出した「同性パートナーシップ証明書」は、渋谷区在住の当事者から見向きもされなかったのです。
渋谷区と同じ昨年11月5日に交付が開始された世田谷区の同性パートナーシップ証明書についても、受け付け開始日に申請したカップルはたったの7組、
渋谷区の1組よりは多いですが、世田谷区の人口が渋谷区よりもずっと多いことや渋谷区の申請費用が8万円かかるのに対して世田谷区は無料という条件を考えると少ないことに変わりありません。
世田谷区の同性パートナーシップ証明書交付を推進者したトランスジェンダーの上川あや区議が申請カップルの少なさに危機感を持って、あちこち電話をかけまくってかき集めた結果、
現在では申請カップルは28組に増えているそうですが、それでも世田谷区の人口が90万で、その5パーセントが同性愛者であると仮定した場合、
世田谷区には4万5000人の同性愛者がいる計算になり、潜在的な同性カップルは2万2500組に達します。
実際に申請した28組を2万2500組で割るとその比率は0.001パーセントと限りなくゼロに近くなります。
やっとかき集めた28組でさえ、その半数以上は上川議員に懇願されて名前を貸した連中だろうし、世田谷区の当事者の圧倒的大多数は「そんなもん、タダでもいらんわ!」と証明書を拒絶したのです。
先日、上川議員はツイッターで、保坂世田谷区長を激しく非難したそうです。
私はそのツイッターは見ていないのでよくわからないのですが、想像するに保坂区長は上川議員が推し進めるLGBTの運動から距離を置き始めているのではないでしょうか。
そもそも世田谷区の保坂区長は、渋谷区のイメージアップのために自ら進んで同性パートナーシップ証明書の交付を発案した渋谷区の長谷部区長とは異なり、
上川議員にせっつかれる形で同性パートナーシップ証明書の交付を決めたわけで、実際に申請を受け付けてみたら、申請カップルがあまりに少ないことにショックを受け、
本当に日本の同性愛者が同性パートナーシップ制度を望んでいるかどうか確信を持てなくなったのではないかという気がします。
今年の2月15日に「保育園落ちた。日本死ね!」というブログの書き込みが話題になり、保育園の待機児童の問題が一躍クローズアップされましたが、世田谷区の保育園の待機児童数は東京23区の中で一番多いそうです。
それで保坂区長は、当事者を含めた区民の関心が低いLGBT問題よりも、待機児童問題などより喫緊の区民の関心が高い問題に優先的に取り組むようになったのではないでしょうか。
それが上川議員の目には裏切りとして映っているのではないかと思うのですが、保坂区長の姿勢の変化は区長としては当然のことで、文句をいう上川議員の方がおかしいのです。
彼女が世田谷区における同性パートナーシップ証明書交付の実現に躍起になったのは、渋谷区に対するライバル意識からでしょう。
長年にわたってLGBT問題に取り組んできたと自負する彼女にとって、渋谷区に先を越されるのが我慢できなかったのです。
それで慌てて保坂区長をせっついて世田谷区でも同性パートナーシップ証明書を交付することに決めたのですが、二番煎じの感は免れず、
証明書の中身も渋谷区と同様、空っぽだったので、世田谷在住の当事者たちにそっぽを向かれてしまったのです。
私はこの渋谷区と世田谷区の同性パートナーシップ証明書については、終始、冷ややかというか、生温かい目で推移を見守ってきたのですが、
今では、発案者のゲイリブが意図したところとは逆の意味で、やるだけの価値があったのではないかと思っています。
証明書の申請者が少なかったことで、あらためて日本の一般同性愛者が同性婚や同性パートナーシップ制度に無関心であることが証明されたからです。
その意味で、これは2007年の参院選での尾辻かな子の惨敗に匹敵する出来事ではないかという気がします。
2007年の参院選で尾辻かな子が同性パートナーシップ制度の制定を公約に掲げて立候補したとき、日本の同性愛者は彼女に投票しないことで、同性パートナーシップ制度など望んでいないという意思を明確にしました。
同様に、今回の渋谷区と世田谷区の同性パートナーシップ証明書についても、渋谷区と世田谷区の当事者は証明書の交付を申請しないことで、「そんなもんどうでもええわい!」とはっきりと拒絶の意思表示をしたのです。
そしてこの日本の同性愛社会のサイレントマジョリティーともいうべき一般同性愛者の意思は、日本でLGBT教の布教活動を行っているケネディ大使にもしっかりと伝わったのです。
ケネディ大使がLGBTの子供に対するイジメについて語った5月8日のゲイパレードでのスピーチに歩調を合わせるかのように、
アメリカに本拠を置く人権団体のヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)は、5月5日に、
「日本政府は、レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー(LGBT)の子どもを学校でのいじめから保護できていない」
と日本政府を批判する声明を発表し、5月7日には都内で、「LGBTの子どもに対するいじめと差別禁止法整備の必要性」と銘打ったイベントを開催しています。
もちろんこれは偶然の一致などではなく、あらかじめ示し合わせたものでしょう。
おそらくゲイパレードを前にしてケネディ大使とHRWおよび日本のLGBT団体の関係者の間で作戦会議のようなものが開かれ、渋谷区と世田谷区の同性パートナーシップ証明書の申請の低調さを踏まえて、
現時点では、日本では同性婚はもちろんのこと、同性パートナーシップ制度でさえ受け入れられる状況ではないと判断し、
日本の国民に受け入れられやすいと思われるLGBTの子供のイジメ問題に的を絞って訴えていくという方針が決定されたのでしょう。
彼らが訴えるLGBTの子供のイジメ問題についても、イジメの激しいアメリカとイジメの少ない日本を意図的に混同している点や、
LGBTの子供だけ取り上げて、ほかの理由でイジメに遭っている子供たちを無視しているところなど、かなりのご都合主義がみられるのですが、
いずれにせよ、日本の同性愛社会のサイレントマジョリティーである一般ホモやレズが渋谷区と世田谷区の同性パートナーシップ証明書に興味を示さなかったことで、
アメリカ民主党政権の日本でのLGBTゴリ押し作戦が一時、後退を余儀なくされたことは事実で、ケネディ大使は日本でのLGBT教の布教のむつかしさを痛感しているのではないでしょうか。