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ドイツ帝国の勃興(1)

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先日、フランスの歴史人口学者のエマニュエル・トッドがここ数年にわたってフランスのメディアから受けたインタビューを収録した『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』(文芸春秋)というタイトルの本を読みました。

最近、大量のシリア難民のドイツへの移動やフォルクスワーゲン(VW)の排ガス不正問題など、ドイツが何かと話題に上ることが多いのですが、

エマニュエル・トッドはこのインタビュー集で、ドイツがアメリカに匹敵するほどの規模の帝国を築きつつあり、その存在が世界に対する脅威になっていると警告しています。

トッドによると、冷戦の終結と欧州の単一通貨ユーロの導入で一番得をしたのはドイツなんだそうです。

冷戦の終結によって共産圏に属していた東欧諸国は続々とEUに加盟しましたが、その結果、ドイツ企業はこれら東欧諸国に進出して工場を建設し、

これら地域の教育レベルは高いけれど賃金は安い豊富な労働力を使って、競争力を高めたといいます。

元々、ドイツとロシアに挟まれたこれらの地域は、歴史的にみて、ドイツの勢力圏になるか、ロシアの勢力圏になるかのどちらかで、

第二次大戦前はドイツの勢力圏だったのが、第二次大戦の結果、戦勝国になったソ連の支配下に入り、それが冷戦の終結により、ソ連からドイツに支配権が再び移ったのだそうです。

EUにおける統一通貨ユーロの導入もドイツの一人勝ちを招いたといいます。


ドイツのような産業競争力が強い国と取引すると、必然的に周辺の国々は貿易赤字になるのですが、もしこれらの国々が独自の通貨を持っていたならば、その通貨を切り下げることで貿易赤字を削減することができます。

ところが統一通貨ユーロの導入のお蔭で、通貨の切り下げができず、ギリシャやイタリア、スペイン、ポルトガルのような産業競争力の弱い国は、

貿易赤字が増える一方で、失業率も高止まり、税収が増えないから財政収支が悪化し、

その赤字を埋めるために実質的にドイツの支配下にあるフランクフルトに拠点を置く欧州中央銀行から借金をし、

ギリシャなどはその借金を返せなくてデフォルトの危機に陥って、最大の貸し手であるドイツから緊縮財政を強いられているのですが、

これは、ドイツがヨーロッパの債務危機を利用してヨーロッパ大陸全体を牛耳るようになっていることを意味するとトッドはいいます。
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トッドによるとヨーロッパ諸国は現在、上の地図で見るように、ドイツを頂点にした階層序列化が進んでいるそうです。

まず中核となるのはドイツとドイツに対する経済的依存度が絶対的であるベネルクス、オーストリア、チェコ、スロベニア、クロアチアなどのトッドが「ドイツ圏」と呼ぶ国々です。

これらドイツ圏に加えてトッドが「ロシア嫌いの衛星国」と呼ぶ、ポーランド、スウェーデン。フィンランド、バルト三国が存在します。

これらの国々はロシアの支配下よりは、ドイツの支配下にいる方がマシだと考えて積極的にドイツの勢力圏に入ってきてドイツの衛星国になっているのだそうです

そしてギリシャなどで構成される南欧は、ドイツに借金をしているために実質的にドイツの被支配地域になっているといいます。

トッドの祖国でドイツの隣国であるフランスについては、トッドはドイツに自主的に隷属しているとみています。

フランスの政治家や銀行家はドイツが台頭したという事実とフランスがドイツを制御できないという事実を素直に認めることができなくて、

みずからドイツに協力することであたかもフランスとドイツが対等の関係であるかのように振る舞っているだけで、

実際は、フランスの政治家と銀行家はドイツのいいなりで、フランスのオランド大統領はドイツ副首相と呼ぶべきだとトッドはこきおろしています。

あとイギリスは近いうちに確実にEUから離脱するとトッドは予言しています。

イギリスはアメリカやカナダや旧イギリス植民地などの「英語圏」との結びつきが強く、ドイツの覇権かアメリカの覇権かどちらかを選ぶことを迫られた場合、当然、アメリカの覇権を選ぶというのです。

実際、イギリス人はよく「英国とヨーロッパ大陸」という言葉を口にしますが、イギリスは島国で、ドーヴァーを渡ると、

気候風土から建物、食べ物から言葉、人間の顔つきまで、ヨーロッパ大陸とはあきらかに異質な世界が広がっているのです。

最後にトッドはウクライナをドイツによる「併合途上の国」に分類しています。

トッドにいわせると、ウクライナ問題はアメリカとロシアの間の問題ではなく、ドイツとロシアの間の問題なのだそうです。

ウクライナはアメリカから遠すぎて、アメリカにとって重要な国ではない、むしろドイツにとって重要な国だとトッドはいいます。

ドイツは冷戦終了後、ポーランド、チェコ、ハンガリー等の東欧諸国の安価な労働力を用いてみずからの産業システムを再編したそうですが、

ウクライナをドイツ圏に併合することで、あらたに4500万人の教育レベルの高い安価な労働力を獲得し、ドイツによるヨーロッパ支配を一層、堅固なものにすることを狙っているというのです。

すでにして欧州連合の人口は5億人に達していて、そのGNPの総額はアメリカに匹敵するといいます。

NATOは実質的にドイツ圏を守っているにもかかわらず、ドイツはみずからは一文も負担することなく、ドイツ圏=ヨーロッパの防衛をアメリカにやらせているとトッドはいいますが、

それにも関わらず、ドイツは最近、アメリカに反抗するようになってきているのだそうです。

2013年にアメリカのCIAがメルケルドイツ首相の電話を盗聴したことが発覚して以来、米独関係はぎくしゃくしていますが、トッドはドイツみたいな危険な国は常時、監視するのが当然だといいます。

アメリカの政治学者のズビグネフ・ブレジンスキーによると、アメリカは、第二次大戦後、ユーラシア大陸の両端にあるドイツと日本という二つの大きな産業国家を支配下に置くことで世界を支配してきたそうですが、

現在、ドイツはアメリカの支配下から離脱する動きを示しているといいます。

そして今後二十年にドイツとアメリカは対立し、二つの国の間で紛争が起こるだろうとトッドは予言しています。

ドイツは20世紀に二つの大戦を引き起こしてヨーロッパを戦火に巻き込んだのですが、21世紀半ばに三回目のヨーロッパの破壊を引き起こすというのです。

続く


本日のつぶやき

リテラもたまには良い記事を書く
http://lite-ra.com/2015/05/post-1103.html


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