☆ マダラカ・エクスプレス
モンバサは前回、ケニアに滞在した時に何度か訪れています。
特別、面白い町ではなく、見所も少ないところですが、ナイロビに直接、向かわずにモンバサに立ち寄ったのは、
中国企業によって建設され、2017年6月に開通したモンバサ・ナイロビ間の新しい鉄道を走るマダラカ・エクスプレスに乗るのが目的です。
モンバサからナイロビ、キスムを結ぶウガンダ鉄道が建設されたのは、イギリス植民地時代の19世紀後半のことで、それ以後、ずっとこの路線は運行されていたものの、メンテナンス不足もあって最近は老朽化し、
旅客列車については、週に2、3回、夜行列車がナイロビ・モンバサ間を走るだけになっていました。
それがこのマダラカ・エクスプレスができたお陰で、これまでのナイロビ・モンバサ間の所要時間が10時間から半分の5時間に短縮され、列車も一日2回、午前と午後に発着するようになったのです。
わたしは特別、鉄道ファンというほどではないのですが、鉄道の旅は好きで、これまでオリエント急行やスーダン鉄道、シベリア鉄道、泰緬鉄道、アンデス高山鉄道など世界各地の鉄道に乗っています。
それでこの新しい列車が開通したというニュースを聞いたとき、ケニアに行く機会があれば是非、乗ってみたいと思ったのです。
しかし問題がひとつありました。ナイロビからザンジバルに飛んだとき、利用したFly 540のフライトが大幅に遅延したことです。
帰路のザンジバル⇒モンバサのフライトのモンバサ到着予定時間は12時30分で、マダラカ・エクスプレスのモンバサ発車時間は15時15分。
飛行機が定刻どおりに到着すれば、モンバサ空港から鉄道ターミナルまでの移動時間を考慮に入れても、列車への乗り継ぎに問題はありません。
しかしFly 540のフライトのモンバサ到着が2時間以上、遅れた場合、モンバサ駅15時15分発の列車への乗り継ぎが間に合わなくなる可能性があり、その場合は、翌朝7時15分の列車に乗ることになります。
この朝7時15分の列車は各駅停車のためナイロビ到着が13時05分。この日の午後4時半には帰国便のドバイ行きエミレーツ航空に乗る予定になっているので、
万一、列車のナイロビ到着が2時間以上遅れた場合、帰国便に間に合わなくなる可能性があるのです。
そういうわけでで、今日は飛行機はちゃんと飛ぶやろかと心配しながら、朝10時にホテルに迎えにきたモハメッドの車に乗って空港へ向かったのでした。
空港に着いて、Fly540のチェックインカウンターの女性に、
「ナイロビからの飛行機は遅れてないか?」
と訊くと、
「遅れてません」
といいます。
「ナイロビから来るとき5時間も遅れたんだけど」
「今日は遅れません!」
きっぱり答えます。
ホンマかいな?と思いながら、搭乗ゲートに向かうと、なんとこの日は本当にフライトの遅れはなく、定刻どおり11時50分に出発し、12時半にモンバサ空港に到着したのでした。
空港から鉄道のターミナルまでタクシーで行きましたが、事前に調べていたところではモンバサのダウンタウンまで1000シリングで行く筈が、
タクシーの運転手は、新しい鉄道ターミナルは郊外にできて、以前のモンバサ駅よりも遠くなったから1500シリングだといいます。
それを1200に値切って鉄道ターミナルに向かいましたが、運転手は列車の座席を予約したかと訊き、予約してないと答えると、満席で買えないときがあるから、
その場合は、モンバサの町に引き返し、良いホテルに案内する。ついでに市内の見物にも連れて行くなどと言い出します。
どうやら1200シリングは払いすぎで、いいカモだと思われたみたいです。
わたしの事前の調査では一等席は当日でも買えると聞いていたので、その点については心配していませんでしたが。
空港のターミナルと見まがうような巨大な新築の鉄道ターミナルに着いたとき、運転手が念のために荷物を車に置いていけというのを振り切って、荷物をもって切符売り場に向かいました。
一等の切符売り場の前には少し列ができていましたが、チケットは問題なく購入することができました。
隣の2等座席の切符売り場の前にも列ができていて、当日チケットを販売しているようでした。
チケットの価格は、一等で3000シリング(約3300円)。モンバサ・ナイロビ間の距離が480キロでこの価格は、日本の新幹線などと較べるとかなり安いといえます。
二等チケットはさらに安く、たったの1000シリング(約1100円)だそうです。
一等の車内は、通路を挟んで2列ずつ座席が配列されていて、座席はかなり広くゆったりしています。
ナイロビまで大体時速100キロちょっとで走行するようです。
この新しくナイロビ・モンバサを結ぶ鉄道は中国企業が建設し、運行サービスも請け負っているようですが、中国企業は最近、サハラ以南のアフリカで鉄道をどんどん建設しています。
エチオピアでは、アディスアベバ・ジプチを結ぶ老朽化した鉄道の大規模改築工事を中国企業が受注し、首都のアディスアベバでは、ライトレールと呼ばれる都市型鉄道の建設工事をやはり中国企業が請け負って完成させています。
中国のアフリカ進出については賛否両論がありますが、わたしは基本的には歓迎すべきことだと考えています。
サハラ以南のアフリカでは、インフラ、特に輸送インフラが絶望的なまでに不足しているのですが、中国企業はこれらの地域で積極的に橋や自動車道路、鉄道を建設しているのです。
ナイロビで読んだ英字新聞でも、ナミビアで中国企業が経営している鉱山が現地労働者の雇用を促進しているとか、掘り出した鉱石を輸出するためのターミナルをやはり中国企業が建設しているとか、
モザンビークの首都マプトでは、ランドマーク的な大型のつり橋を中国企業が建設しているとか、ケニアの孔子学院で中国語を学ぶ学生が増えているとか、アフリカにおける中国のプレゼンスの増大を示す記事が多数、載っていました。
中国はアフリカを植民地化しようとしていると非難する向きもあるようですが、これまでサハラ以南のアフリカに投じられた欧米先進国の膨大な援助資金が、
独裁者である大統領やその手下のスイス銀行の隠し口座の残高を増やすだけの結果に終わったことを思えば、
少なくとも、中国の援助は橋や自動車道路、鉄道などの目に見える形をとって現れていて、その国の国民の役に立っているのです。
ナイロビ・モンバサ間の鉄道は、ツァボ国立公園を横切って走るのですが、これまでは夜行列車だったので、動物の姿を見ることができませんでした。
新しい鉄道は昼間、走るので動物の姿を見ることができるのではないかと期待していたのですが、残念ながら動物は見ることはできませんでした。
それでもバオバブやソーンツリーが点在する広大なサバンナを眺めながら、ゆったりした座席に座ってくつろいで旅行するのは、飛行機やバスの旅では味わえない快適さで、やはりこの鉄道に乗って良かったと思いました。
列車は20時14分の定刻きっかりにナイロビに到着。
電車を降りたら、駅員が旧ナイロビ駅をつなぐコミュータートレインに乗るように案内します。
それは本当にボロい電車で、発車したと思ったら停車を繰り返し、旧ナイロビ駅まで一時間もかかってしまいました。
折角、ナイロビ・モンバサ間を5時間まで短縮したのに新旧ナイロビ駅間の移動に一時間もかかってたらどうしようもないと思いましたが、これもその内、改善されるでしょう。
新ターミナルから到着した旧ナイロビ駅の駅舎は、植民地時代のものをそのまま十分な手入れもせずにずっと使ってきたという感じの本当にボロい駅舎でした。
駅舎の前にタクシーがたむろしていて、そのうちの一台に「リバーロード、500シリング?」と訊いたらあっさりOK。
夜でもなお車が溢れているナイロビの街の雑踏を通って、その夜の宿であるINSK HOTELにたどり着いたのでした。
続く