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Channel: ジャックの談話室
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昨日の旅(37)

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☆ ギリシャへ

イスタンブールを出発した一行は、ギリシャを目指したが、一行のメンバーはわたしも含めて全員、ハッシーシを所持していた。

ヨーロッパにこっそり持ち込んで売るためであるが、そんなわたしたちにとって一番の関門は、トルコとギリシャの国境だった。

いったんギリシャに入ってしまうと、ヨーロッパ域内では、税関検査など殆どないに等しい。

そのため、ハッシーシの密輸を食い止めるために、トルコ出国に際しての税関検査は非常に厳しいと聞いていた。

みんなが一緒に車に乗ってトルコ国境に着いて、だれか一人がハッシーシを持っていることがバレた場合、全員が同じ仲間とみなされて逮捕されてしまう。

そのような事態を避けるために、トルコ側の国境事務所の手前、500メートルのところで、運転手役のジョンとジョージを残して、

全員、車を降りて、個人旅行者を装って、一人ひとり別々にリュックを背負ってトルコ側の国境に歩いて向かった。

トルコの国境事務所に到着し、イミグレで出国手続きをする前に税関に入って、カウンターにリュックを置いて荷物検査を受けた。

口髭を生やしたトルコ人の税官吏は、わたしをみて好色そうな薄笑いを顔に浮かべ、

Are you a boy or girl ?

と訊いてきた。

わたしはそのときアフガンコートを着て、頭にはやはりアフガニスタンで買った毛がふさふさした狐の毛皮の帽子をすっぽり被っていたので、男の子か女の子か見分けがつかなかったらしい。

I’m a boy.

と答えたら、そのままリュックを開けようともせず、「OK,行ってよし」といったので拍子抜けしてしまった。

そんなわけで、あっけなく税関を通ってしまったが、ほかの連中は徹底的に調べられ、リュックから中味をすべて取り出すようにいわれて、細かくチェックを受けたらしい。

幸い、隠し方がうまかったのか、ハッシーシを見つけられた者は一人もいなかったが、みんな検査の厳しさにぶうぶう文句を言っていた。

トルコ側で出国手続きを終えたあと、ギリシャ側の国境事務所に向かったが、両国の国境は長い橋で、橋の両側に銃をもったトルコ兵とギリシャ兵が10メートルくらいの間隔で並んで立っていた。

トルコとギリシャは仲の悪いことで知られているが、橋の上で向かい合って立っている両軍の兵士の間にも緊張感が漂っていて、

夜の闇の中、両軍の兵士に見守られながら、リュックを背負って一人黙々と橋を渡っていったことはまだ鮮明に覚えている。

ギリシャに入国したあと、わたしたちはアテネには寄らず、まっすぐ北の町、テッサロニキに向かった。

テッサロニキに向かったのは血を売るためである。

当時、ビンボー旅行者の間では、売血はよく行われていた。

どこへ行くと血が高く売れるかの情報は旅行者の間でよく知られていて、一番高く売れるのがクウェートで、クウェートでは200ccが日本円にして一万円で売れるという話だった。

しかし、クウェートへ行くにはユーラシア大陸の東西を結ぶアジアン・ハイウェイから大きく迂回しなければならず、往復の旅費を考えれば実際的ではなかった。

一方、テッサロニキはトルコからヨーロッパを北上するルート上にあったことから、テッサロニキを通過するついでに売血所に寄って売血する旅行者が多かったのだ。

テッサロニキでの売血の価格は、日本円にして200ccが二千円、クウェートの5分の一でしかなかったが、それでもビンボー旅行者にとっては、ちょっとした小遣いになった。

もっともわたしはテッサロニキの売血所で血を売ることはできなかった。

採血の前に血圧を測定するのだが、血圧が低すぎて断られてしまったのだ。

ただ断られたのは、わたしだけで、わたし以外の仲間は全員、無事に血を売ることができた。

ネッドなどは、一回では物足らないのか2回、計400CCを売っていた。金欠病のクライブもやっぱり400CCを売っていた。

このテッサロニキの売血所で、ひとりの日本人青年と出会った。

柔道でもやっているのか、がっしりした体格の大学生だったが、彼はヨーロッパから南下する途中、このテッサロニキの売血所に寄って血を売ってからトルコのイスタンブールに向かったという。

ところがイスタンブールで女郎屋をみつけ、通い詰めて散財してしまったので金が無くなり、また血を売って金を得るために戻ってきたというのだ。

彼はとても陽気で快活な人で、イスタンブールの女郎屋がいかに安く遊べるか楽しそうに話していたが、ここで血を売って稼いだ金でイスタンブールに戻ったら、

また女郎屋に入り浸って金を遣ってしまい、またテッサロニキに戻って血を売るという生活を繰り返すのではないかと思った。

いずれにせよ、彼のような体力のある健康な人間だからできることで、わたしなんかとても真似できないと思った。

続く

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