● カルロッテとの出会い
パスポートを取得したあと、タイのビザを取ったり、黄熱病の予防接種をしたりと旅行の準備にあわただしく動き回っていた頃、Kさんから連絡があって、
わたしと同じ10月6日出航のラオス号に乗ってバンコクまで行き、その後、陸路でヨーロッパまで行く計画のスウェーデン人の女の子がいるから、彼女と一緒に旅行したらどうかといってきた。
そのスウェーデン人の女の子は英語を話せるから英会話が得意でない君の役に立つだろうし、彼女の方も女一人で旅するよりも、君と一緒の方が心強いだろう。
彼女は、君がスウェーデンで仕事探しをするのも手伝ってくれる筈だ、という。
それで彼女と会うことを承諾し、河原町丸太町の交差点で待ち合わせて会った。
最初、スウェーデン人の女の子と聞いたとき、ブロンドの髪をショートカットにしたほっそりした背の高い女の子の姿が目に浮かんだが、
実際に会ってみると、髪はブロンドではなく茶色で、背はスウェーデン人にしてはそれほど高くなく、ずんぐりむっくりした体型のお世辞にも美人とはいえない女の子だった。
彼女はわたしのガールフレンドになるわけではなく、ただの旅の道ずれになるにすぎない。美人であろうがなかろうが関係ないのだが、それでもちょっとガッカリしたのは事実である。
彼女はわたしと同い年の19歳で、名前はカルロッテといった。
KさんとはKさんがスウェーデンのストックホルムにいたときに知り合って仲良くなり、Kさんが日本に帰国するとそのあとを追って来日し、日本に2年滞在してお茶やお華などの日本文化を学んだという。
Kさんは、その著書で、ストックホルムにいたとき、スウェーデン人の女の子に随分とモテたみたいなことを書いていたが、この程度の女の子が相手だったんなら大したことはないなと思った。
とりあえず、わたしはカルロッテを誘って近くの喫茶店に入った。
彼女はがっしりした体格に似合わず、蚊の鳴くような小さな声で話す女の子だった。日本に2年も住んでいたわりには日本語は片言しか話せなかった。
それで主に英語で話したのだが、自分の英語がなんとか通じることを確認できて嬉しかった。
京都に戻ってから半年間、NHKの英会話講座を視て英会話を勉強していたのだ。
結局、カルロッテとは日本からネパールのカトマンズまで一緒に旅行した。
カトマンズで別れたのは、彼女がクリスマスまでに帰国することを望んでいたからだ。
わたしの方は、もう少しゆっくり旅行したいと思っていて、それで彼女は、バンコクで知り合ったドイツ人の新婚カップルと一緒に行先に行くことに決めたのだ。
それでも彼女はあとからわたしがストックホルムに着いたら仕事探しに協力すると約束してくれた。
しかし結局、わたしはストックホルムで仕事を見つけることができなかった。
ストックホルムに着いて彼女に電話して、彼女が両親と弟と一緒に住む家を訪ねていったが、彼女の両親はわたしの訪問をあきらかに迷惑がっている様子だった。
両親はおそらく自分の娘がKさんの後を追って日本に行ったことを心よく思っていなかったのだろう。
彼らにしてみたら、娘がやっと日本から戻ってきて、これで日本と縁が切れたと喜んでいたら、また変な日本人の若い男がやってきたので警戒したのだと思う。
肝心の仕事については、カルロッテは、今、スウェーデンは不景気なので、仕事は探しても見つからないだろうといった。
それでストックホルムで仕事探しをすることを諦めて、ラオス号で一緒だった日本人の何人かが働いていたコペンハーゲンに戻って仕事を探すことに決めた。
いずれにせよ、冬のストックホルムは寒すぎて、長居する気にはなれなかった。
ストックホルムではユースホステルに泊まっていたのだが、規則で昼間は外に出なければならない。
しかし屋外は昼間でもマイナス15度くらいの冷え込みで、じっと立っていると足が寒さで痺れてきて立っていられなくて、足踏みしなければならないほどだった。
暖を取るために喫茶店に入ったが、長時間ねばっていると店の従業員に嫌味をいわれた。
スウェーデン人は、男も女も金髪碧眼で背が高く、身なりも小奇麗にしていて、都会的で洗練された印象を受けたが、私のような貧しい外国人には冷たくよそよししかった。
ストックホルムを早めに切り上げてコペンハーゲンに向かう気になったのは、そんなストックホルムの雰囲気が居心地悪かったせいもある。
結局、仕事はコペンハーゲンで見つけることができたので、コペンに戻って良かったと思っている。
カルロッテとは、その後も文通を続けていて、彼女が1975年に再来日したときには東京で再会している。
というわけで、神戸を出航するときは、カルロッテも一緒だったのである。
カルロッテの見送りにはKさんも来ていて、わたしにもちょっと声をかけて帰っていった。
続く
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