2015年12月に電通の新入社員の女性が過労自殺した事件で、去る7日、電通本社と大阪支社、名古屋支社などが労働基準法違反の疑いで東京労働局などの家宅捜索を受けたそうです。
自殺した若い女性社員について、
「そんな長時間の残業を無理強いするようなブラック企業はさっさと辞めてしまえばよかったのに。彼女のやっていた仕事は命をかけるようなものではなかった筈だ」
という意見もあるみたいですが、実際問題として、そんな簡単な話ではないでしょう。
日本では終身雇用の神話は崩れて久しいけれど、労働市場の流動性はまだ十分ではないし、容易に転職できる環境ではないからです。
特に彼女の場合は幹部候補生として入社したそうで、世間では一流と思われている電通という会社にたいする思い入れも強かったのではないかと思われます。
おそらく、彼女はとても真面目な性格で、上司から与えられた無理な仕事のノルマをこなそうと必死で努力して、最後はぷつんと糸が切れてしまったのではないでしょうか。
現在は彼女の自殺のお陰で電通がやり玉にあがっていますが、長時間の残業を強いるブラック企業や残業のし過ぎで過労死する社員は後を絶たず、
長時間労働や休日出勤、有休休暇の未消化を当然とする「滅私奉公」の精神は未だに多くの企業で残っています。
そういう意味では、過労死の問題というのは日本の企業文化、より大きくいえば日本文化や日本人の国民性に根差していて、一朝一夕には解決できる問題ではないと思います。
話は変わりますが、私は一時期、売り専にハマっていたことがあって、週末になると二丁目の売り専バーにせっせと通っていました。
当時(80年代後半)、二丁目の売り専バーのボーイの大半はノンケで、体育会系の学生が人気でした。
彼らは良い身体をしていることに加えて、 非常に素直でいうことをよく聞いたからです。
「先輩の命令には絶対服従」という体育会のルールに慣れているのか、 ワガママなホモの子だったら絶対、拒絶するようなことも、 頼むと嫌がらずにやってくれたし、
客が自分のタイプだったらサービスするけど、 タイプでなかったらサービスしないホモのボーイと違って、基本、男に興味がないので客のえり好みをせず、どんな客が相手でも献身的に尽くしてくれたのです。
彼らと付き合ってみて、企業が体育会系の学生を好んで採用する理由がよくわかったような気がしました。
文句をいわずにおとなしく命じられるままに働く社員というのは企業にとって非常に好都合だからです。
このような利他主義、あるいは企業に対する忠誠心は、体育会系の学生に限らず、日本人によくみられる特徴で、私は基本的にはこのような国民性は美徳であると考えています。
日本が戦後、経済的に発展したのはこういう滅私奉公的なモーレツ社員が頑張って働いたお陰だし、
日本が世界に誇る「おもてなし精神」も、常に相手の立場になってものを考え、相手の満足を優先する日本人特有の行動原理から出ているものです。
しかし、物事にはプラスとマイナスの両面があって、こういう企業に対する忠誠心が行き過ぎると過労死のような悲劇を招いてしまうのです。
私は今回、過労自殺したのが若い女性だったということに特に哀れを覚えました。
私の若い頃は、会社の女子社員といえば大半が「お茶くみOL」で、彼女たちは残業する男性社員を尻目に定時になるとさっさと会社を出て、お茶やお花などの習いごとに通っていました。
彼女たちはそれほど高い給料は受け取っていなかったけれど、大半が親元から通っていたので可処分所得は高く、有休休暇をきっちり取って海外のリゾート地で優雅なバカンスを過ごしていたものです。
それが1985年に男女雇用機会均等法が制定されてから、職場における男女平等が推進され、結果としてそれまで男性社員にしか強制されなかった非人間的な長時間労働が女性社員にも強要されるようになったのです。
かっての高度経済成長時代は、若い社員は長時間労働を強いられても、それほど苦痛に感じなかったのではないかという気がします。
当時は終身雇用と年功序列がまだ保障されていて、若い社員は安月給でこきつかわれていても、齢をとるにつれて管理職になって給料は増えて、やがては自分が若い社員をこき使う側に回ることができると信じていたからです。
それで長時間労働にも耐えることができたと思うのですが、このような会社の未来に自分の将来を重ね合わすことができた幸せな時代はとっくの昔に終わりを告げ、
定年まで同じ会社に勤めるなどという話は最早、非現実的なものになっています。
それにも関わらず、滅私奉公的な労働を社員に強いる電通のような旧態依然とした会社が未だに存在するわけで、そのような会社で働く社員は単に過重労働を肉体的に辛いと感じるだけでなく、
自分が行っている過重労働に意義や価値を見出せなくなっていて、それが過労死の頻発につながっているような気がします。
今回の事件を受けて、電通は厚生労働省に「くるみん認定」を返上したそうです。
「くるみん認定」とは、労働時間の短縮や子育てする社員へのサポートに取り組んだ働きやすい企業を認定する制度で、電通は過去3年間、この認定を受けていたといいます。
長時間労働に加えてパワハラやセクハラが常態化しているといわれる電通が厚労省から「働きやすい企業」の認定を受けていたというのは悪い冗談としか思えませんが、
厚労省はいったいどのような基準に基づいて電通を「働きやすい企業」に認定したのか、きちんと説明する責任があると思いますね。
さらに呆れたことには、この「くるみん認定」の返上と時を同じくして、「work with Pride」(ワーク・ウィズ・プライド)という任意団体が電通を「LGBTが働きやすい企業」として認定したというのです。
電通という会社は、非LGBT社員にとっては働きにくい会社だけど、LGBT社員にとっては働きやすい会社だというのでしょうか。
そんな馬鹿な話はないでしょう。
働きやすい会社というのは、LGBTであろうがなかろうが、すべての社員にとって働きやすい会社で、特定の社員だけが優遇されるような会社ではない筈です。
この「work with Pride」という団体は、日本IBMや人権団体のヒューマンライツウォッチ、グッド・エイジング・エールズと虹色ダイバーシティーなどのLGBT団体で構成されているそうですが、
グッド・エイジング・エールズの代表は現役の電通社員である松中権氏です。
つまり、電通の女性社員の過労自殺事件が世間を騒がせている最中の電通が「働きやすい企業」の認定を厚労省に返上したまさにその時に、
電通社員である松中権氏はお手盛りで自分が働いている会社である電通を「LGBTが働きやすい企業」として表彰したというわけです。
「エリートゲイ写真」()のときもそうでしたが、この松中氏の空気の読めなさ加減は半端ではなく、こんな非常識な社員を飼っている限り、電通の改革なんて到底、無理でしょう。