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満映とわたし(2)

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昭和20年8月9日、ソ連軍は日ソ不可侵条約を破って突然、満州に攻め込んできます。

ソ連軍を迎え撃つ筈の関東軍は、日本人の民間人を見捨てて逃げ出してしまい、8月15日に終戦の詔が出され、ソ連軍が新京に迫る中、満映の甘粕理事長は、服毒自殺します。

ベルナルド・ベルトリッチ監督の『ラストエンペラー』(1987)では、作曲家の坂本龍一が演じる甘粕はピストル自殺するのですが、実際は青酸カリによる服毒自殺だったそうです。

岸富美子は、さっさと自分だけ服毒自殺してしまった甘粕理事長を無責任だと強く非難しています。

最後まで生き残って、満映社員とその家族を救うために尽力すべきだったというのです。

事実、残された満映社員とその家族はその後、大変な辛酸をなめることになります。

東洋一と謳われた満映の撮影所は当初、ソ連軍によって接収されますが、やがてソ連軍は日本人から略奪した物資を列車やトラックに満載して撤収していきます。

満映の撮影機材やフィルムもかなり略奪されたそうですが、高価なカメラなどは、あらかじめ満映社員が隠していたため、略奪を免れたそうです。

ソ連軍は撮影所を共産党軍に引き渡して撤収し、満映は東北電影公司と改名されるのですが、国民党軍と共産党軍の内戦がすでに始まっていて、

国民党軍が新京改め長春に迫ってきたので共産党は撮影所を長春よりもさらに北に移動することに決めます。


そのとき、新しく任命された共産党幹部の撮影所長、舒群(じょぐん)は、日本人の満映社員たちに自分たちと一緒に北上してくれるように懇願します。

ソ連軍の略奪を免れた高価な撮影機材を使いこなすことができる中国人技術者は一人もいず、日本人技術者がいなければ、映画を作ることができないというのです。

この熱心な勧誘に答えて、内田吐夢と木村荘十二の二人の監督が彼らと同行することを決めます。

なぜ二人の監督が共産党に協力する気になったのか、中国の共産主義の行く末を見届けたかったのではないかと岸富美子は推察しています。

満映社員から尊敬されていたこの二人の有名監督が舒群の申し出を受け入れたことで、東北電影公司に雇われていた旧満映社員の大半、約150人が共産党と一緒に北上することに同意します。

彼らは格別、共産主義にかぶれていたわけではなく、このまま映画の仕事を続けたい、愛着のある撮影機材と一緒にいたいという単純な思いで共産党に同行することを決めたのだそうです。

岸富美子と兄でカメラマンの福島宏、結婚してまもない富美子の夫でカメラマンの岸寛身とその家族は迷った末、共産党に従うことに決めます。

いつ日本に帰れるか分からなかったし、東北電影公司の社員でいる限り、給与が支払われたので生活できたからです。

撮影所の一行は、撮影機材を満載した百両の貨車と共に長春を出発します。

当初、行先はハルビンと聞かされていたのが、実際にはハルピンよりも更に北の佳木斯から松花江を渡った鶴崗という町に連れていかれ、そこに撮影所を作るために働くことになります。

そんなときに日本への引き揚げが始まって希望者は帰国できるというニュースが飛びこんできます。

このときもまた舒群所長が熱弁を振るって日本人を引き留め、内田吐夢と木村荘十二の両監督は留まることに同意しますが、50人ほどの旧満映社員とその家族は帰国することに決めます。

長女を出産したばかりの岸富美子とその家族は、残留組に入りますが、このとき残留組と帰国組の間に溝ができ、

残留組が後に日本に帰国したとき、先に帰国していた旧満映社員たちは「あいつらはアカだから雇うな」と触れ回り、残留組が撮影所に再就職するのを妨害したといいます。

去っていく日本人と入れ替わるように延安から中国人の映画関係者が鶴崗にやってきます。

彼らは元々、上海の撮影所で働いていた上海出身の映画人で、抗日映画や反日映画を作っていたせいか、

鶴崗に残った日本人の旧満映社員とは交流しようとせず、満州出身の旧満映社員の中国人に対しても、戦時中、日本人に協力した漢奸として冷たく接します。

そしてようやく撮影所が完成して撮影ができるようになった頃、舒群所長はいつの間にかいなくなり、新しく任命された上海出身の撮影所長が日本人を集めて、

「国共内戦が続いているので、しばらく映画製作ができない。このような状態で何百人もの映画人を養うことはできないので精簡する。精簡された人は別の任務についてもらう」

と言い渡します。

精簡というのは人員を削減し、行政を簡素化するという意味だそうですが、文化大革命のときの「下放」と同様、僻地に送られて肉体労働に従事させられることを意味し、

このときは日本人技術者の約半数がこの精簡の対象になり、鶴崗から少し離れた沙河子というところにある炭鉱に送られ、炭鉱夫として働かされることになります。

驚いたことに内田吐夢と木村荘十二の両監督もこの精簡組のリストに入っていたといいます。

撮影所からしてみれば、中国人の監督がいるのだから日本人の監督はいらない。中国人監督の手足となって働く日本人技術者がいればそれでよいということだったようですが、

精簡の対象となった日本人からは当然のことながら、共産党に裏切られたという怨嗟の声が上がります。

舒群所長に「映画製作にはどうしてもあなた方、日本人技術者が必要だ」と懇願されて善意で共産党と行動を共にすることに決めたにもかかわらず、炭鉱送りになったのですから。

このときの精簡によって、炭鉱送りになった日本人と鶴崗に残った日本人の間には深い溝ができたといいます。

この頃は、甘粕理事長によって事務員として満映に雇われた日本から逃げてきた日本人の共産党員が旧満映社員のリーダーになっていて、彼らが撮影所の中国人と相談して誰を残して、誰を炭鉱送りにするかを決めたらしいのですが、

共産党系の事務員が鶴崗に残る一方、病気がちな人間、未亡人、親を失った子供たちなど弱い人間が精簡組に入れられて炭鉱に送られたのです。

岸富美子と夫は精簡組に入っていなかったものの、兄とその家族が精簡組に入れられたのでみずから志願して沙河子に行くことに決めます。

沙河子では日本人はかって中国人の苦力が収容されていたという泥土の小屋に入れられ、極寒の中、乏しい食料しか与えられず、過酷な炭鉱労働に従事させられます。

その結果、多くの日本人が飢えや病気で亡くなったそうですが、固い凍土のお陰で埋葬用の穴さえ掘ることができなかったそうです。

さらに炭鉱では「闘争会」という名の集団リンチが頻繁に行われたといいます。

この炭鉱では鶴崗から来た旧満映社員の日本人のほかに敗残日本兵、元開拓団員、元満蒙少年義勇軍、各地で行き場を失った日本人など総勢2千人から3千人の日本人が強制労働に従事させられていたそうですが、

「闘争会」というのは、共産主義への思想改造のために日本人同士集まって批判しあう集会で、元日本兵が集団でかっての上官を糾弾して吊るしあげ、裸にして外に放り出して死なせたりすることもあったそうです。

このような過酷な環境に置かれたお陰で、精簡組の日本人の間の諍いや喧嘩も増え、内田監督と木村監督の仲もぎくしゃくし出したといいます。

内田監督も木村監督も晩年、自伝を出版しているそうですが、二人とも自伝ではこのときの経験にはほとんど触れていないそうです。

思い出すにはあまりに辛い体験だったのでしょう。

精簡の一年半後に、岸富美子たち旧満映の日本人技術者は長春の撮影所に呼び出され、やっと映画製作の仕事に就くことになります。

国共内戦がようやく共産党の勝利によって終わったのです。

岸富美子は、新生中国の第一回作品『橋』や中国全土で大ヒットした国民的映画『白毛女』の編集を担当します。

彼女の兄や夫もそれぞれカメラマンとして中国映画の製作に参加しますが、日本人技術者は全員、中国名でクレジットされ、中国人の観客には日本人が製作に協力していることがわからないようにされたそうです。

その後、岸富美子は頼まれて中国人の編集者を育成します。彼女が中国人に具体的な編集の技術を教え、内田吐夢監督がエイゼンシュタインのモンタージュ理論などを教えたそうです。

中国人技術者の教育が終わった1953年に日本人技術者の帰国が許され、岸富美子は夫や兄と前後して日本に帰国します。

19歳で満州に渡ってから14年、結婚して3人の子持ちになっての帰国でした。

1981年、岸ら旧満映社員たちは、長春電影製片廠の創立35周年の記念式典に招待され、約30年ぶりにかっての中国人の同僚たちと感激の再会を果たします。

しかし夜になってこっそりホテルを訪ねてきた中国人の元同僚たちから、文化大革命の時代、旧満映社員の中国人が満映で日本人の走狗として働いた罪に問われ、激しい迫害を受け、

8年間も獄中で過ごしたり、手足の指を失ったり、命を落とした仲間がいることを聞かされるのです。



本日のつぶやき

EMA日本 ‏@emajapan2013 · 8月17日
結婚とは、人生最大の祝福であり、個人の最大の尊厳でもあり、家族との責任でもあります。その最大の祝福や尊厳、責任が、自分には認められないと知った、ゲイやレズビアンの子どもたちは将来に絶望し、自尊心を傷つけられているのです。2020年までに #同性婚 を!


異性と結婚する権利はすべての人間に平等に認められています。
ゲイやレスビアンに生まれたからといって同性と結婚しなければならない理由は存在しません。
異性と結婚して子供を作り、幸せな家庭を築いている同性愛者は沢山います。


つぶやき2

今、企業がLGBTに注目する理由とレインボー消費
阿佐見 綾香
株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター 未来創造グループ
http://dentsu-ho.com/articles/3028

飽きもせずにやってるねぇ





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