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Channel: ジャックの談話室
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昨日の旅(40)

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☆ 再び一人旅

オーストラリア人のネッドは、ドイツ人のマーティンみたいに荷物を持ち逃げされなかったが、それでもイギリス人たちの仕打ちに大きく傷ついていた。

オーストラリアはイギリスと同じエリザベス女王を君主として仰ぐ英連邦の一員なので、オーストラリア人のネッドは当然、イギリス人たちを自分の仲間だと思っていたらしい。

それなのにイギリス人たちは彼を見捨てて行ってしまったのだ。

「彼らと一緒にロンドンに行くつもりだったのに。。。」

とネッドは酷く落ち込んでいた。

恨み言をいうネッドに、

「もしクリスがいたら、こんなことは起こらなかったかもしれない」

というと、ネッドは、

「そうだ、そうだ。クリスがいたらこんなことは起こらなかったに違いない」

と賛成した。

ユーゴ人のクリスは、わたしたちグループの実質的なリーダーだった。

彼がいる間は、仲間内でいさかいが起こりそうなときはいつも彼が抑えていた。

ところが彼がいなくなった途端、イギリス人三人組とドイツ人マーティンの争いが起こってしまったのだ。

当初はジョンとジョージ、クライブのイギリス人3人組とクリス、ステファン、マーティンのオーストラリア出稼ぎ3人組は、数の上でも拮抗していた。

しかしベオグラード郊外でクリスが抜け、ザルツブルグでステファンが一行から離れると、オーストラリア出稼ぎ組はマーティンひとりになった。

イギリス人がマーティンの荷物を持ち逃げした直接のきっかけは、マーティンがブロンド美人のウェイトレスを独り占めにしたことにあったのだろうが、

わたしが知らないところで、それ以前からイギリス人とマーティンの間で確執が始まっていたのではないかと思う。

それがマーティンが美人ウェイトレスと寝たことがきっかけで、一気に表面化したのではないか。

もしクリスが一緒にミュンヘンまで来ていたら、イギリス人たちもあんな暴挙に出ることもなかっただろう。

イギリス人に捨てられたネッドはこれからどうしてよいかわからないみたいで、愚痴をこぼしてばかりいた。

わたしは当初の予定どおりにこのままヒッチハイクでスウェーデンのストックホルムまで行ってカルロッテと再会して仕事を探すことに決めた。

テヘランからミュンヘンまでみんなと一緒に旅することで、自分で交通機関やホテルを探す手間が省け、移動は楽だったが、自分で旅程を決めることができず、ほかの仲間が立てたスケジュールに従わざるを得なかった。

たとえば、イスタンブールはとても魅力的な町で、もっと長居をしたかったが、クリスマスまでに帰国することを望む仲間たちのお陰で、数日しか滞在できなかった。

そんなこともあってまた自由なひとり旅に戻りたいと考えていたのだ。

ネッドは可哀そうだったが、彼の泣き言を聞かされるのにウンザリしていたのも事実だった。

彼はわたしよりもずっと年上なんだから、わたしに頼らずに自分のことは自分で決めるべきだと思っていた。

当時はわたしのようなバックパッカーがヨーロッパを旅行するときは、ヒッチハイクで旅行すると決まっていた。

ただわたしはそれまでヒッチハイクを一度もやったことがなくて、やり方がわからなかった。

同じユースホステルに泊まっている20代半ばの日本人がいて、彼は翌日、フランクフルトに向けてヒッチするので、一緒に高速道路の入り口まで行こうと誘ってくれた。

その日本人は、ヨーロッパに来る前にアフリカのスーダンを旅行したという。

スーダンは人間が親切で、とても良いところだといっていた。

当時はスーダンを旅行する日本人はめずらしく、スーダン駐在の日本大使が興味をもって「話を聞かせてほしい」と公邸に食事に招待してくれたそうだ。

同じ在外公館でもヨーロッパではビンボー旅行の若者は鼻もひっかけられないが、アフリカまで行くと事情が変わるらしい。

翌朝、ネッドに別れの挨拶をして、その日本人と一緒にヒッチハイクを始めるために高速道路の入り口に向かった。

ヒッチハイクするときには、ハイカーは先着順に並ぶという暗黙のルールがある。

一番最初に着いたハイカーが高速道路の入口を入ったところに立つ。

そうすると走ってくる車のドライバーの目にそのハイカーの姿が真っ先に入ることになるからだ。

後から着いたハイカーは、順番に前に立っているハイカーから10メートルくらいの間隔を空けてその後方に並ぶことになる。

わたしたちが高速道路の入り口に着いたとき、わたしたち以外にヒッチハイクをしている人間はいなかった。

一緒にいた日本人は、新米のハイカーであるわたしのために順番を譲ってくれて、わたしが彼よりも前に立つようにしてくれた。

ヒッチハイクするときは、走ってくる車のドライバーに向かって親指を立てながら右手を上げるのだが、

実際にやってみると、手を上げて一分もしないうちに車が停まった。タクシーを捕まえるよりも簡単だった。

20メートルほど先に停まった乗用車の窓からビジネスマンらしい中年の男性が顔を出して、私の方をみてニコニコ笑いながら手招きしていた。

わたしは一緒にいた日本人に礼をいうと、地面に置いていたリュックを担ぎ上げて車に向かって走っていった。

おわり


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