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いつのまにか大国になったドイツ

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ドイツのメルケル首相が、北朝鮮が核やミサイルの実験を繰り返し緊迫する朝鮮半島情勢について「われわれに交渉参加の要請があれば、即座に応じる」と述べ、仲介外交に意欲を示しているそうです。
https://www.nikkei.com/article/DGXLAS0040004_Q7A910C1000000
彼女は、以前から、「この問題は、平和的な外交による解決しかありえない」と主張して、北朝鮮にたいする軍事力行使をちらつかせるアメリカのトランプ大統領を牽制しているのですが、
現在、西側諸国で、トランプ大統領にたいしてこれだけはっきりと意見をいえる首脳はほかにいないでしょう。

フランスのマクロン大統領やイギリスのメイ首相は、ヨーロッパで一人勝ち状態にあるドイツに対抗するためにトランプ大統領にすり寄っているし、
北朝鮮のミサイル問題や中国との間で尖閣諸島の問題を抱えている日本は、安全保障の面でかってないほどアメリカ依存を強めています。
そんな中で唯一ドイツだけがアメリカに物申す立場にいるのです。
今年の5月にイタリアで開催されたG7サミットでは、地球温暖化問題や保護貿易をめぐってアメリカのトランプ大統領とメルケル首相が対立し、
サミット後、メルケル首相は、「ヨーロッパがアメリカに完全に頼れる時代は終わった。ヨーロッパは自分たちの運命を自分たちで切り拓いていくしかない」と述べたそうですが、
この発言の裏には「少なくとも、ドイツはアメリカに頼らなくともやっていける」という自負心があるわけで、いつのまにドイツはそんなに強い国になっていたのかと驚かされます。
日本とドイツは共に第二次大戦に敗戦国で、敗戦の結果、戦前の領土の多くを失いましたが、
ドイツはそれに加えて、東ドイツと西ドイツに分断され、首都であったベルリンは東ドイツの領土内に浮かぶ陸の孤島になってしまいました。
1948年にソ連がベルリンに向かうすべての道路と鉄道を封鎖したとき(ベルリン封鎖)、アメリカ軍はベルリン空輸作戦を実施して、ベルリンに物資を輸送してベルリン市民の生存を保障しました。
西ドイツがアメリカに完全に頼り切っていたこの頃と現在では隔世の感があります。
戦後、日本も西ドイツもアメリカによる復興支援を受けて順調に経済発展するのですが、経済発展の度合いは西ドイツよりも日本の方がめざましく、1968年に日本のGNPは西ドイツを抜き、世界第二の経済大国になります。
しかし、バブル崩壊後、日本経済は低迷します。
一方、ドイツは1990年に念願のドイツ統一を果たし、その後、EUの共通通貨であるユーロを導入します。
ユーロの導入は、ドイツ統一によってドイツが再び大国になることを恐れたイギリスやフランスが、ドイツ統一の交換条件として強い通貨であるマルクを放棄するように迫った結果だといわれていますが、
皮肉なことにドイツ経済はユーロ導入によってますます強くなります。
ユーロ安の影響でドイツの輸出産業は大いに潤い、ソ連の崩壊後、EUに加入した東欧諸国の優秀で安価な労働力を自由に使えるようになったからです。
そして気がついたら、ドイツはEUを牛耳っていて、フランスの歴史人口学者のエマニュエル・トッドがその著書、『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』で予言したように、アメリカと対立するまでになっていたのです。
去る2015年にはドイツにシリア人を初めとする大量の難民が押し寄せました。
メルケル首相がドイツはすべての難民を受け入れると表明したことが引き金になったのですが、それにより難民がヨーロッパに溢れ、大混乱に陥ったのは記憶に新しいところです。
ドイツでは一度に大量の難民が押しかけたせいで収容施設が足りなくなったり、難民の若者がドイツ人女性を暴行する事件が頻発して、メルケル首相を批判する声が高まったそうですが、
あれから二年近く経った現在、メルケル首相にたいする批判は収まって支持率は回復し、このままいくと9月の総選挙で勝利して首相に再選されることが予想されているといいます。
2015年一年でドイツには100万人の難民が流入したそうですが、結局のところドイツ国民はメルケル首相が断行した大量の難民受け入れ政策を支持したことになるのでしょうか。
ドイツは日本と同様、少子化問題を抱えていて、2015年のドイツの出生率は1.41で日本の1.43よりも低く、人口を維持するために必要な出生率である2.07を大幅に下回っています。
出生率の低下は日本よりもドイツの方が先に顕著になり、80年代にすでに1.4の水準まで低下していて、このままいくと将来、ドイツ人はこの世から消えてなくなるといわれたものです。
この少子化を解決するためにドイツは積極的に移民を受け入れるようになります。
その結果、現在ではドイツの全人口、約8220万人の内、移民のルーツを持つ人間が約1710万人に達し、人口の約21%を占めるようになっているそうです(Statistisches Bundesamt 2016a)。
現在、ヨーロッパでは移民排斥の機運が高まっているといわれていますが、ドイツではこれだけの移民を受け入れながら、
移民制限を訴える政党AfD(ドイツのための選択肢)の支持率が伸び悩み、メルケル首相率いるCDU(キリスト教民主同盟)の支持率が堅調に推移しているといいます。
このことは、ドイツ国民が移民受け入れには犯罪の増加や治安の悪化などのマイナス面を上回るプラスの面があると考えていることを示しているのではないでしょうか。
実際、近年のドイツ経済の好調は移民の存在なくしては、語ることはできないし、ドイツの産業界は大量のシリア難民の受け入れを歓迎しているといいます。
それにしてもたった一年で100万人もの難民を受け入れることがいかに凄いことか、日本に同じ数の難民が押し寄せたときに果たして適切に対応できるか、考えてみればよくわかるでしょう。
2015年の100万人よりだいぶ減ったとはいえ、2016年にもドイツは30万人の難民を受け入れているのです。
多少の混乱はあるにしても、これだけの数の難民を受け入れてしまうドイツという国の底力は大したものであるといわざるを得ません。
ドイツは大量の難民を受けいれることで、不足している若年労働者を確保すると同時に「世界中の迫害されている難民を受け入れる人道国家」というプラスのイメージを世界に拡散しました。
ドイツといえば、ヒトラー、ナチス、ホロコーストというイメージが強かったのが、難民を寛大に受け入れる人道国家のイメージを強調することで、過去の歴史に由来するネガティブなイメージを払拭することに成功したのです。
さらにメルケル首相は最近は保護主義に傾くアメリカのトランプ大統領に対抗して自由貿易のリーダーとして振舞うようになっています。
ドイツ在住のノンフィクション作家である川口マーン恵美さんによると、過去にホロコーストという大罪を犯したにもかかわらず、ドイツ国民はみずからを道徳的な国民であると信じているそうで、
ドイツは過去に犯した罪をきちんと認めて謝罪しているのに、日本は謝罪していないと上から目線でエラソーに説教を垂れているといいます。
同じ第二次大戦の敗戦国でありながら、どうしてこれだけの差がついてしまったのか、日本人は真剣に考えるべきだと思いますね。

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