去る6月12日フロリダ州オーランドのナイトクラブで、武装した男が客に向かって銃を乱射、犯人を含む50人が死亡し、53人が負傷するというショッキングな事件が起こりました。
犯人はオマル・マティーンというアフガン移民二世の29歳のアメリカ人で、イスラム過激派の思想に共鳴していたといわれ、
事件後、ISが犯行声明を出したことから、当初、イスラム過激派によるテロとみなされ、オバマ大統領もテロと断定しましたが、
銃乱射の舞台になったクラブがゲイクラブであり、犯人が同性愛者を嫌っていたという証言があり、ホモフォビアの犯人による同性愛者をターゲットにしたヘイトクライムであるとの見方が浮上します。
しかしその後、犯人が事件の舞台となったナイトクラブにちょくちょく客として訪れていて、店の客とゲイ向け出会い系アプリでチャットしていたという常連客の証言が出てきて、
さらに犯人の離婚した元妻や学校の同級生から「彼はゲイだった」という証言も飛び出し、ゲイである犯人が同じゲイ仲間を狙った乱射事件である可能性が高まったのです。
実際、マスコミに公開された犯人の自撮り写真を見る限り、かなりのナルシストであることが窺え、彼がゲイだといわれても違和感は覚えません。
犯人はこのゲイクラブの片隅で一人で飲んでいることが多く、ときには泥酔して喚き散らすようなこともあったそうです。
人種のモザイク国家といわれるアメリカでは、ゲイバーやクラブも人種ごとに別れているといいます。
白人向けのゲイバーには白人ゲイしか集まらず、黒人ゲイは黒人向けのゲイバーに集まり、アジア人向けゲイバーにはアジア人ゲイとアジア人を好む白人ゲイ(大抵は年寄り)が集まるのだそうです。
知り合いの日本人はアメリカに行ったとき、そういうアメリカのゲイバーの仕組みを知らずに、間違って白人向けのゲイバーに入ってしまったそうですが、
店にいた白人ゲイたちから空気のように存在を無視され、ショックを受けたといいます。
彼は身長が180センチほどあってかなりのイケメンなのですが、白人向けバーではいくらイケメンでも白人でなければ相手にされないというのです。
銃乱射事件の舞台になったゲイクラブは、ラティーノ(ラテン系アメリカ人)が集まるクラブだったそうで、アフガン系の犯人がこのクラブに行くようになったのは、ラティーノと中東の人間は外見が似ているからでしょう。
しかし、彼はこのクラブでいつも一人ぼっちだったといいます。
今回の事件で私が連想したのは、1999年にコロラド州コロンバインで起こったコロンバイン高校銃乱射事件です。
同校の生徒二人が学校内で銃を乱射して教師や生徒の間に多数の死傷者を出した事件ですが、アメリカのハイスクールにはスクールカーストという学校内の階層があって、
犯人の二人の生徒はFagot(おかま野郎)と呼ばれる最底辺のカーストに入れられていたといいます。
このFagotというカーストに入れられるのは必ずしもホモの生徒とは限らず、スポーツをしない弱弱しいタイプの生徒はみんなこの最底辺のカーストに分類され、上位カーストの生徒からイジメられるのだそうです。
この事件の犯人の少年二人もスクールカーストの最高位に君臨するジョックと呼ばれるスポーツが得意な生徒たちから日常的にイジメを受けていて、その復讐のために犯行に及んだといわれています。
犯人の少年二人はハイスクールという彼らが属するコミュニティー内で孤立し、疎外感を味わっていたわけですが、今回の事件の犯人も、彼が属すべきゲイコミュニティーから拒絶されていると感じていたのではないでしょうか。
9.11以降、アメリカでは中東系のイスラム教徒はなにかと白い目で見られ、肩身の狭い思いをしているそうですが、犯人の青年もイスラム教徒であることでアメリカ社会で疎外感を味わっていた可能性があります。
そして彼がイスラム教徒であると同時にゲイでもあったことは、彼の抱える精神的な問題をより複雑なものにしていたと思われます。
ご存じのようにイスラム教は同性愛を禁止しています。
実際にはイスラム圏ではタテマエとホンネが使い分けられていて、男同士のセックスは西洋キリスト教圏よりも頻繁に行われているのですが、アメリカに住んでいる彼が仲間を見つけるためにばゲイバーに行くしかなかったのしょう。
しかし前述したようにアメリカのゲイバーは人種別に分類されている上に、同性愛と飲酒を禁じているイスラム教徒向けのゲイバーがある筈もなく、彼としては外見が似ているラティーノ向けのゲイバーに行くしか選択がなかったと思いますが、
上記のアメリカの同性愛者の全体的な行動傾向によると、ラティーノはラティーノ同士、遊ぶ筈で、彼はそこでラティーノの客たちから無視され、相手にされなかったのではないでしょうか。
犯人が事件当日、911(緊急通報番号)に電話をかけ、過激派組織「 イスラム国」(IS)への忠誠を誓ったという話や事件後ISが犯行声明を出したことから、
この事件をイスラム過激派によるテロ事件と捉える向きもあるようですが、私はちょっと違うのではないかと思っています。
ヨーロッパ社会に同化できず、疎外感を味わったヨーロッパのイスラム教徒の移民2世がシリアに行ってISの戦闘員になるように、
アメリカ社会で疎外感を味わっていた犯人がイスラム過激主義に傾倒していた可能性はありますが、彼がISに言及したのは自分の犯行に「大義名分」を与えるためで、
後出しで犯行声明を出したISも事前に彼の計画を知っていたとは思えないし、ISが彼に犯行を指示した可能性ば非常に低いと思います。
彼が事件を犯した真の動機は、自分を受け入れてくれなかったこのゲイクラブとその客に対する復讐でしょう。
コロンバイン高校でイジメを受けていた生徒が自分をイジメた生徒たちやそのようなイジメを放置した学校に復讐するために校内で銃を乱射したように彼も自分を無視したクラブの客たちに向かって銃を乱射したのです。
今回の事件は、人種、宗教、同性愛およびそれに関連するテロ、ヘイトクライムとアメリカが抱える問題を凝縮したような事件ですが、
今回の事件で明らかになったのは、アメリカのゲイコミュニティーもアメリカ文化の基盤をなす差別&暴力と無関係ではないということです。
アメリカのゲイたちはみずからを「差別される少数派」「弱者」として規定し、これまで常に被害者としてふるまってきましたが、
そのゲイコミュニティー内部にも差別が厳然と存在し、それが今回のような事件を引き起こすきっかけになることをアメリカのゲイたちはもっと自覚すべきだと思いますね。
以前、日系3世のアメリカ人ゲイから、アメリカのゲイリブ運動を牛耳っているのは白人ゲイで、アジア系ゲイは「アレが小さい」などと馬鹿にされるという話を聞いたことがありますが、
追悼デモをやる暇があったら、アメリカのゲイコミュニティー内の人種差別についてもっと真剣に考えてみるべきでしょう。